日本の対中国経済協力(概観)
2006年3月
1.はじめに
2.対中国経済協力計画(2001年10月)
3.無償資金協力
4.草の根・人間の安全保障無償資金協力
5.文化無償協力
6.技術協力
7.円借款
8.国際機関を通じた経済協力
データ:日本の対中経済協力の実績
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【1.はじめに】
改革・開放政策を進める中国の更なる安定と発展、また、日中両国の友好協力関係の更なる強化は、アジア・太平洋、ひいては世界の安定と発展にとり極めて重要です。
このような考え方の下に、日本政府は、1979年以来27年にわたり経済協力を一貫して実施してきました。その累計額は、約3.4兆円(2004年迄の交換公文ベースで、1,800億人民元に相当)に上ります。
日本の経済協力は、日本国民の税金等を原資に、中国の鉄道、道路、港湾、空港などのインフラの整備から農村開発、環境保全、保健・医療の向上、教育・文化の振興など幅広い分野で使われ、その対象は中国の全ての省・自治区・直轄市に及んでいます。
このような経済協力は中国の経済・社会発展ならびに福祉の向上に大きく貢献すると共に、中国が優先課題として位置付けている改革・開放政策の推進に極めて大きな役割を果たしています。
今日、日本は中国にとり最大の援助供与国です。
●対中経済協力についての日本の考え方(1979年12月7日、大平正芳総理(当時)の講演より抜粋)
「世界の国々が貴国(中国)の近代化政策を祝福すべきものとして受けとめているのは、この政策に国際協調の心棒が通っており、より豊かな中国の出現がよりよき世界につながるとの期待が持てるからに外なりません。我が国が中国の近代化に協力するとの方針を強く打ち出した所以も、我が国独自の考え方に加えて、このような世界の期待に裏打ちされているからであります。」
●「平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言」(1998年11月26日、江沢民国家主席の訪日時)
「日本側は安定し、開放され発展する中国はアジア太平洋地域及び世界の平和と発展に対し重要な意義を有しており、引き続き中国の経済開発に対し協力と支援を送っていくとの方針を改めて表明した。中国側は、日本がこれまで中国に対して行ってきた経済協力に感謝の意を表明した。」
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【2.対中国経済協力計画(2001年10月)】
中国の経済発展に伴い、中国側の協力に対する需要、期待は変化しています。また、日本の厳しい経済・財政事情などを背景として、経済協力の効果、効率性の向上も求められています。
このように、対中経済協力を取り巻く状況は大きく変化しています。
これらを踏まえ、日本は、2001年10月に「対中国経済協力計画」を策定しました。今後はODA大綱の理念・原則を踏まえ、同計画に基づき対中経済協力を実施することとしています。
日本はこれらの経済協力を通じ、21世紀における日中関係が更なる深さと広がりを増すことを望んでいます。
対中経済協力の重点分野・課題 (「対中国経済協力計画」2001年10月外務省)
従来型の沿海部中心のインフラ整備から環境保全、内陸部の民生向上や社会開発、人材育成、制度作り、技術移転などを中心とする分野をより重視する。また、日中間の相互理解促進により資するよう一層の努力を払う。
●環境問題など地球的規模の問題に対処するための協力
(例)環境保全(水資源管理、森林保全・造成等)、エネルギー関連環境対策、感染症対策(HIV/AIDS、結核) 柳州酸性雨及び環境汚染総合整備プロジェクト(円借款) 寧夏回族自治区植樹造林防砂プロジェクト (円借款)
●改革・開放支援
(例)市場経済化加速の努力に対する支援により中国経済の国際経済との関わりを一層強化、経済活動に関する法制度の整備支援
●相互理解の増進
(例)専門家派遣・研修生の受け入れ・留学生支援・青年交流・文化交流・学術交流・観光促進のための政策提言・人造り
●貧困克服のための支援
(例)貧困対策に関する政策・制度面での整備、人造り、草の根レベルでの保健・教育分野の支援、貧困地域の民生向上に向けた協力
●民間活動への支援
(例)知的所有権保護政策の強化など、中国側の投資受け入れのための基盤整備努力に対する支援
●多国間協力の推進
(例)日中両国による第三国に対する支援、東アジアにおける環境分野などでの域内協力の推進
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【3.無償資金協力】
(1)無償資金協力とは
主に基礎生活分野、環境、人材育成等の分野を対象に、返済義務のない贈与という形式の経済協力です。
(2)中国における無償資金協力
1980年以来、医療・保健、環境保全、人材育成・教育等の基礎生活分野で協力してきています。
2004年度末までの累計は、1,457億円(2004年度迄の交換公文ベースで累計65億人民元相当)です。(注:草の根・人間の安全保障無償資金協力(後述)、文化無償協力等の供与金額も含む。)
中日友好環境保護センター
中日友好病院
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【4.草の根・人間の安全保障無償資金協力】
(1)草の根・人間の安全保障無償資金協力とは
基層社会の地域住民の福利向上を目的として実施する、現地における具体的かつ比較的小規模なプロジェクトに対して行う無償資金協力です。
1件の協力金額は原則として最高1000万円です。
各地域を管轄する大使館、総領事館が直接窓口となり、比較的簡便な手続きにより、農村・貧困地域の住民のニーズに迅速に応えるものなので、地元関係者他から極めて高く評価されています。
事業の実施に当たっては、現地地方公共団体及び現地NGO(非政府組織)等の草の根レベルでの協力も得ています。
(2)中国における草の根・人間の安全保障無償資金協力
1990年以来、農村・貧困地区における初等教育、医療保健及び生活環境等を重点分野として、幅広い協力を行ってきています。
供与金額は年々増加し、1990年度の0.05億円から、2004年度は4.15億円と大幅な伸びとなっています。
2004年度末までの累計は、699件、約51億円(3.7億人民元相当)です。
湖北省仙桃市沙湖住血吸虫病予防センター入院病棟建設計画
湖北省京山県新市第一中学校新校舎建設計画
更に知りたい方はこちら
申請要領
過去案件一覧
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【5.文化無償協力】
(1)文化無償協力とは
各国の文化と教育の振興を支援し、我が国とこれら諸国との文化交流を促進すること目的としています。返済義務のない贈与という形式の経済協力です。一般文化無償、草の根文化無償、文化遺産無償の3種類に分別されます。
(2)中国における文化無償協力
1980年以来、大学の日本語学習機材、教育テレビへの番組ソフト、放送機材、図書館、博物館、美術館他への機材の供与、文化財の修復支援を行っています。
北京日本学研究センターに提供した日本語学習器材
大明宫含元殿遺跡保存県境整備計画
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【6.技術協力】
(1)技術協力とは
開発途上国の国づくりの基礎となる「人材育成」のために技術、ノウハウ等を伝え、その技術が国内に普及し、経済・社会発展に寄与することを目的とする経済協力です。
制度としては、日本への研修員受入、日本の専門家派遣、青年海外協力隊派遣、機材供与、プロジェクト方式技術協力(日本への研修員受入、専門家派遣及び機材供与を組み合わせたプロジェクト)、開発調査等に分類されます。
協力の対象は、医療・飲料水の確保等の基礎生活分野からコンピューター技術や法律・制度の整備等まで幅広い分野に及んでいます。
これらの技術協力は国際協力機構(JICA)を通じて実施されています。
(2)中国における技術協力
環境保全、貧困、地域間格差の是正、市場経済構築のための研修員の受入や専門家の派遣を行っています。
派遣された専門家は中国政府より高い評価を得ており、"長城友誼賞"などの賞を受賞しています。青年海外協力隊員は、中国全土において地域住民と一体となって当該地域の発展に協力しています。
既に中国国内に移転した技術を、更に広く中国又は第三国に普及させるための取り組みも行われています。
2004年度末までの累計は、1,505億円(83億人民元相当)です。研修員受入16,839人、専門家派遣5,376人、青年海外協力隊派遣577人(含むシニア海外ボランティア)、機材供与257.29億円、プロジェクト方式技術協力65件、開発調査211件を行いました。
この他にも一万人を越える青少年に対する奨学金の支給も行われています。
青年海外協力隊員の活動
造林専門家による現地指導
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【7.円借款】
(1)円借款(別名、有償資金協力)とは
経済及び社会の発展を支えるため、比較的多額の資金を必要とする事業に対し、緩やかな貸付条件(注)で資金を供給する事業です。
(注)低利(2004年度対中円借款年利率0.75-1.5%)、長期の返済期間(30-40年間。10年程度の据置期間を含む)
このような緩やかな貸付条件となっているのは、日本の公的資金を活用しているためです。
円借款の供与システムは、実施機関である国際協力銀行(JBIC)の審査結果を経て、日本政府が借款供与額や貸付条件を決定し、政府間で交換公文(Exchange of Notes: E/N)を締結することになっています。(その後E/Nを受けてJBICが借入人との間で手続き等詳細を定めた借款契約(Loan Agreement: L/A)を締結し、案件を実施することになります。)
(2)中国における円借款
1979年に最初の対中円借款の供与が意図表明されて以来、2004年度末までに累計で約3兆1,331億円(2004年度迄の交換公文ベース。
1,651億人民元相当)の供与が決定され、中国の改革・開放と経済及び社会の発展基盤を支えるプロジェクトを数多く実施してきました。改革・開放後の中国は外貨準備が乏しかったため、円借款は貴重な資金源となりました。
1980年代から90年代前半は、中国の沿海部のインフラ整備といった事業を中心に支援してきました。
2001年度以降は、「対中国経済協力計画」の内容に沿って、環境対策・人材育成といった分野を中心に資金協力を行っています。
2004年度は859億円(交換公文ベース)の供与が決定されました。
なお、円借款については、2008年の北京オリンピック迄に、新規の供与を終了する方向で、日中両国政府間で協議が行われています。
甘粛省人材育成計画
(蘭州交通大学における円借款での調達機材利用風景)
陕西省黄土高原植林事業
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【8.国際機関を通じた経済協力】
二国間のODA(政府開発援助)の他に、日本政府は国際機関を通じた援助にも力を入れています。
ODA実績額で見ると、日本の全世界に対するODAの約4分の1は国際機関を通じた援助です。
日本は世界銀行やアジア開発銀行(ADB)の主要な出資国であるとともに、国連諸機関との連携などを進めてきています。
例えばADBにアジア開発基金、日本特別基金を創設し、これを通じて、中国のインフラ建設事業への支援を行っています。
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【データ:日本の対中経済協力の実績】
(1)年度別(支出純額ベース、単位:億円、1990年~2004年)
年度
無償資金協力
技術協力
有償資金協力
1990 年
66.06
70.49
1,225.24
1991 年
66.52
68.55
1,296.07
1992 年
82.37
75.27
1,373.28
1993 年
98.23
76.51
1,387.43
1994 年
77.99
79.57
1,403.42
1995 年
4.81
73.74
1,414.29
1996 年
20.67
98.90
1,705.11
1997 年
68.86
103.82
2,029.06
1998 年
76.05
98.30
2,065.83
1999 年
59.10
73.30
1,926.37
2000 年
47.80
81.96
2,143.99
2001 年
63.33
77.77
1,613.66
2002 年
67.87
62.37
1,212.14
2003 年
51.50
61.80
966.92
2004 年
41.10
59.23
858.75
(注1)年度区分は、有償資金協力については交換公文締結日が含まれる年度、無償資金協力及び技術協力は予算年度(但し、96年度以降の無償資金協力実績については、当該年度に閣議決定を行い、翌年度5月末日までに交換公文(E/N)の締結を行ったもの。
(注2)有償資金協力及び無償資金協力は交換公文ベース。技術協力はJICA経費実績ペース。
(注3)無償資金協力には草の根・人間の安全保障無償資金協力を含む。
(注4)四捨五入の関係で合計が一致しない場合がある。
(2)累計額
(i) 無償資金協力 約1,457億円(2004年度末までの交換公文による供与限度額の累計)
(ii) 技術協力 約1,505億円(2004年度末までのJICA経費支出実績額の累計)
(iii) 有償資金協力 約3兆1,331億円(2004年度末までの交換公文による供与限度額の累計)
貸付実行額は約2兆2,234億円、貸付に対する償還額は元利計で約1兆486億円(それぞれ2004年度末までの累計) |